たき火~詩・ひとりごと

アウトプットのためのアウトプットです

2022/7/31

今日母親からまた金を借りた。借りたと言ってみたが、それは婉曲的に表現しただけで、実際上は受け取ったとしたほうが正しい。この年で金の無心をするのは社会通念がもたらす様々な心理的葛藤を乗り越えなければならないが、いったん乗り越えてしまえばあと…

YOUR MOTHER SHOULD KNOW

鍵のかかった一室で母の帰りを待つ姉弟母を通して見えた世界の扉は固く閉じられて暗闇に一条の光もなくすでに意識は朦朧と出せるものも出し尽くし泣く力も果て横たわる母を恨むことさえ知らず絶望に逃げ込む術さえ知らず恐怖におののき混乱に泣き明かした日…

ホーム

鼻を突く臭いに一瞬たじろぎながら彼らの棲家に分け入ってゆく都合よく一箇所に集められた人人人今はただ順番を待つだけの身でその群れの中に祖母はいた半開きの口は不吉な予感に満ち天井を見つめる瞳には何を宿しているのか周りはそれぞれの役割を果たすべ…

酒飲み人

さあさあ、今日も一日ご苦労さん 週の真ん中通り過ぎ お休みまではあと三日 それからそれも通り過ぎたら お休みまではあと六日だ 今夜もこいつを飲みほして 頭のゴミを吐き出しちまおう 頭がからっぽなら怖いものなし すべてが自然の産物になる 不自然が一番…

前髪

何でだろう きみの前髪がぼくの顔にかかって かゆくてしょうがない 横にきみがいて 無防備な寝息をたてていて ふたりは今ひとつのはずなのに かゆくてしょうがないんだ 完全な世界に生じた一点のシミが 徐々にぼくらの空間を蝕んでいく 気がつけば時計の針は…

健忘症

最後にきみと話したのはいつだったかな。 思い出せない。 昔のことはのっぺりした一枚紙に一緒くたに貼り出されて、 時系列がはっきりしないんだ。 確かなのはぼくはきみと話したことがあって、 思えばそれはとても特別な時間だったってこと。 それであの時…

愛のテーマ

愛を着飾る所有欲 奉仕という名の悦楽 寛容に潜む余裕 楽天家に滲む悲哀 信頼と貼られた非常口 すべてコンビニのゴミ箱に棄ててこよう 華麗な手つきで 誇らしげに堂々と それからもう一度戻ってみて まだ処分されずに底の方に埋もれていたなら 今度は掻き出…

土の匂い

遠い記憶の片隅に 置き忘れてしまったものがある気がする それは私にとってなにか決定的なものでかつて私の一部だったような気がするなにか 雨の日にわき立つ土の匂いに脳を刺す電車の発車ベルに踊るような少女のステップにそいつの影を見た気がしてハッとす…

モグラ

想いは空に吸い込まれ 足はぬかるみに沈んでゆき もがくほどに沈んでゆき 煙ばかりが吐き出されるのです 両の手で掻き集めた宝物は こぼれ落ちこぼれ落ち 網の目の粗さを嘆くばかり 陽に目をしかめ月に涙し 雨に打たれてぼんやりと そして今日もモグラは穴倉…

シアワセ

つかんだと思えばその手にはなく そばにいたと思えばもういない 近づいたと思えば離れてゆき 見捨てられたと思えば足元に転がっている 猫みたいにひょうひょうと気まぐれなやつさ 今日はどこぞの仮宿で 一夜の夢を見せているのか

月が降りかかる夜に 草木は光を浴びて躍動し 命を吹き込まれたぼくの影は踊り出した 湿気を含んだ夜気は密度を増してざわつき 自制を失った犬たちは空に向かって吠えたてる 舞台は第2部 真夜中の狂想曲 鑑賞者は一人 後ろから2列目の真ん中、特等席 月が降…

生きる

生きる理由がほしいなら 自分で作らなくちゃいけないよ みんな必死で探し出して 後生大事に抱えてる あの人の笑った顔が見たいなら 自分で笑わせなくちゃいけないよ じゃなきゃあの人は離れてゆき 手には余韻しか残らない 目に映るものすべてが下らなく思え…

細分化された世界で 与えられた歯車を回し続けているよ 隣のレーンに入ってはいけない そこはおまえの持ち場じゃないから 悪魔の囁きが 絶えずおまえを唆すだろう 振り返ってはいけない 見回してもいけない 周りはみんな幻で たぶんおまえも幻だから その道…

仮構の城

意味のないものに意味を見出し 価値のないものに価値をつけ 根拠のない自信を拠り所にして 二本足でかろうじて立っている人たち 理性と引き換えに不安を手に入れ 止む事のない罪の意識に苛まれ ありもしない理由を求めつづけ 自分を納得させて次へと進んでい…

山~多摩

あるがままただあるだけで なすがままただ風に吹かれて 凛々しい横顔に陽を浴びながら ぼくを見下ろし続けるおまえ 時に母性を たまに父性を見出し 憧れと畏れの対象であったおまえ 変わらないもの 変わり続けるもの おまえは全てを包含して ぼくの前に立ち…

ひとり

いつかきみと歩いた道を 今日はひとりで歩いてる あの時きみと見た景色 今はひとりで眺めてる ひとりで感じた侘しい愉悦 ふたりで作った親しい郷愁 どちらも味わえる喜びに 時間の切れ目にきみを思い出そう 乾いた風が心地よく 何もなくて全てが満たされた世…

たき火

たき火が燃えている そのゆらめきは妖しくもどこか優しい 人の内部にすっと入って知らぬ間に出ていく巧みなスリの手口のようだ たき火が燃えている ぼくはたき火に飲み込まれまいと必死に抵抗する ぼくの中にたき火がいるのかたき火の中にぼくがいるのかぼく…