たき火~詩・ひとりごと

そのゆらめきは妖しくも優しい

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鼻を突く臭いに一瞬たじろぎながら
彼らの棲家に分け入ってゆく
都合よく一箇所に集められた人人人
今はただ順番を待つだけの身で
その群れの中に祖母はいた
半開きの口は不吉な予感に満ち
天井を見つめる瞳には何を宿しているのか
周りはそれぞれの役割を果たすべく動き出す
靴をはかせて車椅子に移すもの
肩を揉み出すもの
しきりと建設的な話題を持ちかけるもの
それを呆然と眺めて立ち尽くすもの
誰も彼女の背後に透ける必然について語らない
それがここでの所作であり
おそらく正しいことなのだろう
私の番がきた
彼女ははじめ私が誰だかわからないようだった
その衝撃を私はうまく受け流すことができた
彼女の手を握り自分の名を連呼する
くり返しくり返し
赤ん坊に説き聞かせるように 
すると置物を眺めるようだった彼女の眼がしだいに脈打ちはじめ
私の手を強く握り返した思うと
見覚えのあるくしゃくしゃな笑顔が現れた
彼女は私を認識した
生温かい手は私と祖母が同じ場所にいることを思い出させる
押し寄せる感情を周りに気取られぬよう私は必死だった
こんな瞬間でさえ気持ちを押し殺す自分を呪いながら
こうして私は荷物をひとつ降ろして
また新しい罪を背負い込んだ