2015-07-05 土の匂い 詩のようなもの 遠い記憶の片隅に 置き忘れてしまったものがある気がする それは私にとってなにか決定的なものでかつて私の一部だったような気がするなにか 雨の日にわき立つ土の匂いに脳を刺す電車の発車ベルに踊るような少女のステップにそいつの影を見た気がしてハッとするのだが思い出せない 決して忘れてはいけなかったはずのなにか けれども私はこうして生きていて問題といえばたまに泣きたくなるくらいのもので無性に泣きたくなるくらいのものでそういうものだと思って生きています
2015-07-05 モグラ 詩のようなもの 想いは空に吸い込まれ 足はぬかるみに沈んでゆき もがくほどに沈んでゆき 煙ばかりが吐き出されるのです 両の手で掻き集めた宝物は こぼれ落ちこぼれ落ち 網の目の粗さを嘆くばかり 陽に目をしかめ月に涙し 雨に打たれてぼんやりと そして今日もモグラは穴倉に帰ってゆき 煙ばかりが吐き出されるのです
2015-06-12 シアワセ 詩のようなもの つかんだと思えばその手にはなく そばにいたと思えばもういない 近づいたと思えば離れてゆき 見捨てられたと思えば足元に転がっている 猫みたいにひょうひょうと気まぐれなやつさ 今日はどこぞの仮宿で 一夜の夢を見せているのか
2015-06-08 月 詩のようなもの 月が降りかかる夜に 草木は光を浴びて躍動し 命を吹き込まれたぼくの影は踊り出した 湿気を含んだ夜気は密度を増してざわつき 自制を失った犬たちは空に向かって吠えたてる 舞台は第2部 真夜中の狂想曲 鑑賞者は一人 後ろから2列目の真ん中、特等席 月が降りかかる夜に 前触れもなく上演される
2015-06-08 生きる 詩のようなもの 生きる理由がほしいなら 自分で作らなくちゃいけないよ みんな必死で探し出して 後生大事に抱えてる あの人の笑った顔が見たいなら 自分で笑わせなくちゃいけないよ じゃなきゃあの人は離れてゆき 手には余韻しか残らない 目に映るものすべてが下らなく思えたら 全力で飛び込んでいかなくちゃいけないよ 頭でなく感情で理解すれば 見える景色もあるだろう あの人が別のだれかと笑っていたら ぼくも笑っていなくちゃいけないよ だれかを独占したいという気持ちが 傲慢以外の何かであるはずもなく
2015-06-01 道 詩のようなもの 細分化された世界で 与えられた歯車を回し続けているよ 隣のレーンに入ってはいけない そこはおまえの持ち場じゃないから 悪魔の囁きが 絶えずおまえを唆すだろう 振り返ってはいけない 見回してもいけない 周りはみんな幻で たぶんおまえも幻だから その道を進んでいくんだ ただひたすらに真っ直ぐ
2015-05-27 仮構の城 詩のようなもの 意味のないものに意味を見出し 価値のないものに価値をつけ 根拠のない自信を拠り所にして 二本足でかろうじて立っている人たち 理性と引き換えに不安を手に入れ 止む事のない罪の意識に苛まれ ありもしない理由を求めつづけ 自分を納得させて次へと進んでいく そうして築き上げた仮構の城にも 徐々に浸み出してくるよ 塀の隙間からねっとりとした黒いものが 決してそれと目を合わせてはいけない 意識をそらし続け 仮構の城で生きる人たちへ